2019年「ジャルジャルのネタのタネ」コント、ベスト10

 こんばんは。普段は暴力映画を撮っています阪元です。

 皆さんご存知ジャルジャル(敬称略)というお笑いコンビが自身のYouTubeチャンネルにて毎日コント動画をアップし始めてもう2年目。その名も「ジャルジャルのネタのタネ」というシリーズで、もう既に700本以上のコントがYouTubeにて公開されています。

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 そのコントの内容は本当に様々なのですが、撮り方は一切の例外無く統一されており、白背景に引きのフィックスの画。カット割りも無ければ美術セットも殆どありません(万能の"木箱"だけはよく登場します)。映像技術やロケーションを使うという事をせず、殆ど"無"の世界から様々なコントを見せてくれるジャルジャル

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衣装の変化などありますが、700本以上あるほぼ全部のコントがこれです。

 タイトルが必ず「○○な奴」で統一されている事から、ジャルジャルのコントで一番大事なのは、彼らが演じる濃いキャラクターたち。そしてそのキャラクターによって巻き起こされるコミュニケーション不全のおかしさや不条理劇。それを重要視して見せるためにはもはや背景やロケーション、カット割りなどは余計なのでしょう。(もちろん劇場やテレビの間を縫って年数百本のコントを撮るためのスケジュールなどはあるのでしょうが)

 自分も映像を使ってコミュニケーションのズレ、そこから起きる暴力を描くことを仕事にしているので、とても勉強になる部分があります。

 今回は完全主観の僕の好みで、2019年にアップされた「ジャルジャルのネタのタネ」のコント、ベスト10ランキングを書いていきます。完全主観なので「初心者におすすめ」だったり「誰でも笑える」といったものというよりは必然的に「狂人ネタ」や「コミュニケーションのズレ」「日常に舞い込む不条理」を描いたコントが多くランクされています。

 まあ本当にそこは好みという事でぜひ最後まで読んでいってください。そして、1人でも多くの人にジャルジャルのコントをみてほしいと思っています。よろしくお願いします。

 

ベスト10位

 「ボディーミュージックの世界に送り込まれる奴」

「ボディーミュージックパフォーマンスする奴」

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 会社員の後藤(敬称略)が上司の福徳(敬称略)に「会社を辞めて、自分でなにかを始めたい」と告げる。すると福徳が「じゃあそういうの得意な鷲見さんに連絡したるわ」と電話をすると……。

 ランキング10位は「ボディーミュージックの世界に送り込まれる奴」です。

 普通のコントってコンビのうちのどちらかがボケ(ジャルジャルの場合はボケというより狂人)で、どちらかがツッコミ(ジャルジャルの場合は一般人、もしくは2人とも狂人)じゃないですか。当たり前ですが。でもこのコントは少し変わっていて、ボケとツッコミは居るのですが、ボケの役割である福徳が電話口で一瞬だけ話す「鷲見さん」という人が、ボケを上回る更なる一番の狂人であり、その姿形を一切見せない人物から浴びせられる不条理に、ツッコミの後藤が翻弄されるという構成になっています。

 声も形も見せない「鷲見さん」に突然人生を掌握させられるという不条理が淡々と告げられていく様はもはやひとつも"お笑い"じゃないですね。

 ジャルジャルに限らず、様々なシチュエーションで「こんなヤバいやついるかよ!www」をやっていくのが普通のコントです。しかし、このコントの中では「ヤバいやつ」である「鷲見さん」という人物は一切登場しません。登場するのは福徳演じる「鷲見さんを知っている人」と、後藤演じる「鷲見さんを知っていく人」

 そしてその「鷲見さんを知っていく人」は私たち観客自身でもあります。福徳の口から小出しに出される「鷲見さん」の情報を後藤と私たちは一体となって聞いて、後藤と私たちは同じタイミングで「あ、鷲見さんって絶対関わったらあかん人なんや」と気づいていきます。

 

福徳「鷲見さん、基本的に優しい人なんよ。人が良い人で。安心して。でも一回でもこちらからお願いした事を断ったりしたら……もう……すごい人なんよ。どうなるかわからんぐらいで」

後藤「え? どういう意味ですか、どうなるかわからん…?」

福徳「凄い良い人なんやけど、ちょっとでも断ったりすると、ほんまにすごいんよ……。ブチ切れたり……。それはもう、実家方面までいくみたいで……」

 

 すでにもうその人からは離れられないということが決定している、その段階の後から、どんどんその「鷲見さん」のヤバさが告げられていく後半は圧巻です。関わっちゃいけないと気づいた段階ではもう取り返しのつかないくらいに関わってしまっている。

 だって皆さんも、仕事やら人間関係で取り返しのつかない事が既にもう起きた後から「え、これって想像以上にヤバかったんじゃ?」と気づいていくことってあるじゃないですか。少なくとも俺はめちゃめちゃあります。

 もう自分の力ではどうする事も出来ない、そもそも自分がどうこうする範疇の相手じゃない、自分がどうにかできる状況じゃない、でもそれに関する悪い情報だけはひたすらに耳に入ってくる。これはバナナマンの名作コント「ルスデン」に通ずるものがあります。このコントが気に入った方は「ルスデン」もセットでどうぞ。

 それとタイトルにある「ボディーミュージック」についてはもうどちらも殆ど触れず、「鷲見さんのヤバさ」のみに終始するのも良いですよね。結局ボディーミュージックってなんやねんとなりそうなもんなんですが、そんなことより「鷲見さんって何者?」

  

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 そしてその続きの「ボディーミュージックパフォーマンスする奴」。

 続き物という事で、同率10位とさせて頂きました。

 後藤が出すクオリティーの低すぎる「ボディーミュージックパフォーマンス」という出し物に、観客である福徳がぶちぎれ続けるというシンプルな内容です。

 結局前作では一切の説明がなかった「ボディーミュージック」の全容が明らかになるんですが、本当にしょうもなさすぎて笑えます。

 普通「ボディーミュージックパフォーマンスというしょうもない出し物」というものを題材にコントを作ったら、そのパフォーマンスのクオリティーの低さ、しょうもなさが面白さのピークに来ると思うんですが、このコントはそうじゃなく「観客がしょうもない出し物に対して的確なクレームを延々言って、そのクレームを受けた人がめちゃめちゃ心を痛める」話にまで進んでいきます。

 まず「クレームを受けている人が、そのクレームが全て事実だから何も言い返せずにただただ胸を痛めている」という状況を映像やコントで今まで見た事ないのでめちゃくちゃ面白かったです。

 だいたいのクレームのシーンって、クレームを言う側が理不尽なことを言って、それを受ける側が平謝りしたり逆ギレしたりというストーリーになることが多いとおもうんです。ていうかだいたいパターンしか見た事ないじゃないですか、創作で生まれるクレームのシーンって。

 でもこのコントのクレームを受けてしまう後藤は、そのクレームの1つ1つが完全に事実であるが故に「ぐぅううう……」と決死の表情でそのクレームを受け止め続け、必死に、必死にやり過ごしていきます。自分が100%悪いのはわかっているから、なにも聞きたくないし、今すぐ逃げ出したい。でも逃げるわけにはいかないから必死に必死に痛む胸を抑えてクレームを耐え続ける。その姿がめちゃくちゃ面白い。

 そしてそれが"お笑い"になると思ってやっているジャルジャルってやっぱり凄いなと思いました。

  鷲見さんは今回は名前すらも出てこないのですが、「ああ、鷲見さんにやらされてて、もう逃げられない状況なんだろうなあ」ということもわかる。良いコントでした。

 ベスト9位

「電球変える人と気まずい奴」

 

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 ちょっと10位の段階で文字数が大変な事になっているので簡単に説明すると「気まずい事に対してぶちぎれるやばい奴」のコントです。

 まあ多かれ少なかれ誰でも「気まずいなあこの空気……」と思った事はあると思います。仕事でも、友人同士でも、家族間でも、当たり前です。このコントの場合は「電球を変えにきた業者の人と気まずい」。ありますよね、なんかの業者さんと気まずい瞬間。

 だいたい、そういう気まずいときって人は「なんとか話持たせななあ、会話続かへんなあ……」と思うか、ドライな人だと「まあええわどうでも。別にもう会うこともないし」と思うか、その二沢と思うんです。

 しかしこのコントでは「あ、俺気まずいわ」とハッキリと相手にブチ切れ、「気まずいねん」と詰めるという展開が起きます。

 普通では出来ない事ですよね、当たり前なんですが。

 気まずい相手に「俺気まずいわ。気まずいねん」なんて言える人この世にいません。言える相手だったらまず気まずくならないんですから。そこの矛盾を文字通り蹴飛ばして、「気まずいねん!お前と一緒におるん気まずいねん!」と面と向かってハッキリ言うのが本当におもしろい。まるで街の中を暴力を振るいまくりながらドライブできるゲーム、「グランド・セフト・オート」をやっているときのようなカタルシス

 だって自分がやりたくても出来ない事を追体験するためにエンターテイメントってあると思うんです。僕も気まずい瞬間いきなり「あかん、気まずいわ」ってブチ切れたいですもん。

 また、このコントの素晴らしいところは、誰か個人への怒りだったり憎しみだったり、そう言ったもので生まれているわけではないんですよね。後藤は「なんか喋れや!」とは決して言わないように、「電球変える人」ではなく「気まずい状況」に怒っている。これはスゴい事です。

 僕も映画で飲食店へのクレーマーをしばきあげるシーンを撮った事があるのですが、やはり「こういうクレーマーは死ね」というようなメッセージを感じられるシーンになりました。それって結局「こういうやつ死ねよ」という個人への攻撃で終わっているんですね。

 この作品は、そういった「こういうやつムカつくよね」のその先にある、誰でも抱えているモヤモヤそのものを破壊するようなコントになっていると思いました。

 あと素晴らしいのが脚立という装置ですよね。

 舞台上で、引きのワンカットだとどうしても暴力描写が難しくなる。殴ったり蹴ったりするとどうしても当ててないのがわかってしまうので"ギャグ"っぽくなってしまうんですね。

 それがこのコントは上手くて、後藤の攻撃として「人が登っている脚立を蹴る」という、直接的では無いが本人の大切な足場を攻撃するという危ない行動によって緊張感を生む事に成功しています。

 舞台上で「あ、危ないっ」と一瞬でも思わせるって本当に難しい事だと思うので、うまい使い方だなあと思いました。

 

ベスト8位

「ハズレの先生に家庭訪問される奴」

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 簡単にあらすじを説明すると、「ヤバい先生が家庭訪問に来る」ただそれだけです。

 頭のおかしな人間に支配されてしまう不条理劇。

 「ボディーミュージックの世界に送り込まれる奴」と似ているのですが、このコントの恐ろしいところは、神保マオが息子の担任になってしまっている時点でもうとっくの昔に手遅れ。という点です。

 序盤に、後藤演じるお父さんは「ルイボスティーを出さなかった」と神保マオの逆鱗に触れてしまいます。そこから徐々に「私はルイボスティーしか飲まないんで。そう伝えてあるんで」と語気を強め出し、しまいには「お父さんの普段の行いが悪いせいで進くん(息子)へ悪影響が及ぼすと思います」と説教をし始めます。

 ここでお父さんはポロっと「あいつものすごい外れの先生引いてるやん…」と呟きます。もうこの時点で諦めてしまっているんですね。家に上げてしまったのが悪いのではない、ルイボスティーを用意しなかったのが悪いのではない、もうこの先生が担任になってしまった時点でこうなる運命は決まっていて、この先生から逃れる事は出来ないのであると。

 もうここからは支配される一方です。

 面と向かって反論したり意見したりする立場では無くなってしまっているため、「よいしょお!」と叫ぶ事しか出来ません。

 後半に何度もくり返させられる「日々反省、日々成長。日々反省、日々成長。日々反省、日々成長することは、前に進む事」というしょうもないブラック企業の社長が言いそうな台詞も良いですよね。

 前半が、勝手に部屋に入ってくる、自分の飲みたい飲み物を出さなかったからブチ切れる、と言った飛躍したサイコっぷりを見せたかと思えば、後半になって急にリアリティのある、(一応)教育者としての枠を出ない範囲での狂気を見せてくるバランスがすごいと思いました。 あくまで神保マオというキャラクターは「ハズレの先生」なんで、教育者として最後まで居続けるわけです。

 

 ベスト7位

「上下関係逆転する奴」

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 「サークルの後輩がバイト先に客として来たらめちゃめちゃ態度悪いやんけなんやねんこいつ」というネタです。

 有りそうだけど無さそうで、でもなんか有り得そうな設定。居そうで居なさそうで、でもこんなやつ居てもおかしくないよな、って感じさせる沼田のキャラクター。そういうやり取りが進んでいく中で、突然放たれる「責任者呼んで」という余りに強烈な一言。

 そのたった一言で「あ、この人ほんまのほんまにヤバい人やったんや」と一瞬で理解できる構成はやはり見事です。キャラクターの本性が開花した瞬間にストーリーが一気に加速していくというのは脚本として本当に美しい。教科書のようです。

 前半に普通のサークルの後輩として現れ、中盤で「普段はええ人やけど、ちょっとややこしい部分もあるんかな?」と思わせ、そして終盤の「あ、こいつほんまにおかしいやつなんや」と思わせてからのクライマックス。三幕構成として本当に見事です。

 ずっと「喫茶店に来た客」として振る舞い続ける沼田に対して「サークルの先輩」として振る舞い続ける福徳。この関係性の差異がクライマックスで描かれるのですが、面白いのはラストの一言。

「手の震えが止まらへん」

 ああこいつも「サークルの先輩」として毅然と振る舞って沼田を諭してたけど、やっぱり心の奥底では身近な人間のヤバい部分を見てしまったことに対する恐怖心があったんだとわかるオチ。普通にめちゃめちゃ爆笑しました。

 脚本としてとても美しい構成になっているので、全ての脚本家志望の方はこのコントを見てほしいです。

ベスト6位

「会話の間で黙る奴」

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 簡単にあらすじを説明すると、「気まずい会話の完全再現」って感じで、特にストーリーは有りません。

 同じく「気まずさ」を軸に描いたベスト9位「電球変える人と気まずい奴」、三幕構成が見事なベスト7位「上下関係逆転する奴」とは打って変わって、これはストーリーがほぼ有りません。ただただ何か気まずい会話を延々見せられるだけのコントです。

 端から見たらテンション高めで会話してるように見えますが、お互い沈黙が流れた瞬間に頭の中をフル回転して何とか気まずくならないように頑張っている様子が手に取るようにわかります。

 2人が無理してテンション上げて喋ってたのに突然神のお告げかのようにパッと話題が無くなり、まるで合わせたかのように2人同時に話さなくなってしまい、沈黙が流れ、その沈黙もすごく居心地の悪いタイプの沈黙で、その沈黙の瞬間、

 「あ、やべ会話とまってもうた。でもさっきは俺から話題振ったから次は"待ち"に徹した方が良いやんな。俺ばっかり喋るやつやと思われても嫌やし。うん。うーん、でももう正直話す事こいつとあんまりないんやけどなー。すれ違ったとき気づかんかった事にすれば良かった。なんで話しかけてもうたんやろ。ミスったなー。でも「あ、じゃあそろそろ行くわ」って切り出すんも何か苦手やねんなあ。あの瞬間さえ耐えれば解放されるんやけど。よし、あと1ラリーだけ会話して、それで話題無くなったら分かれよう。よし。何か無かったっけ……何か話題……不自然じゃない話題……」

 と思ってるんだろうなと。

 ぶっちゃけそれだけのネタなので合わない人に取っては「だからなんやねん」で終わるでしょう。「電球変える人と気まずい奴」のような、この気まずさをぶち壊すような展開も強烈なキャラクターも無いので「あるあるネタ」のその先を見せてくれるコントでは有りません。

 でもやっぱり、このなんとも言えない空気を一本の映像作品として残したのが本当にすごいと思いました。「電球変える人と~~」のような延々と沈黙が続くタイプの分かりやすい気まずさを描いた映像は沢山あると思うのですが、このタイプの絶妙な関係性の間柄で起きる気まずさを描いたのはこの作品でしか見た事ないです。

 

ベスト5位

「面白さ以前にキツい奴」

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「オーディションにキツい女芸人が来る」という内容のコントです。

  僕は映画を撮る人間なのでキャスティングをする際に時々オーディションをさせてもらうのですが、そういうときにこのようなシチュエーションになった事が1度か2度くらいだけあります。ここまで壮絶に痛々しくはないのですが、「ああ、この人今後も苦労するだろうなあ」とその時思ってしまいました。

 オーディションって1分や2分そこらで、何を持ってここに立っているのかをわからせなきゃいけないので焦る気持ちはすごくわかります。自分がオーディション受ける立場だったら絶対にうまく話せないだろうし、うまくいかなくて落ち込んでる未来が簡単に想像できます。自分がどういう人間か自分で100%理解できているわけでもないし一番そこがわからなくて毎日悩んでるのに、それを他人に短時間で説明するなんて殆ど無理な話ですよ。

 でも結局、そういう時に焦って爪痕を残そうとか無茶苦茶やってやろうとか、そう言う事って全然大事な事じゃないんですよね。

 オーディションって、今までの人生をどう生きてきたか、それをちゃんと伝える。ただそれだけだと思います。受かる、受からないは一度置いといて、自分はこういう人間であると伝えられたかどうか。それがオーディションで一番大切な事じゃないですか。

 もちろん台詞をうまく言うとか、パフォーマンスをうまく披露するとか、それも大事ですが、あくまでオーディションは本番ではないので、そこで100点じゃなくていいのです。極端な話ですが。

 それよりも「この人なら一緒にやっていけそうだな」と思わせるのが大切な事だと僕は思います。僕は、って言う話なので、他の監督さんの意見もあると思いますが。

 ここでやっとコントの話になりますが、この箕輪光という人は、自分の素の部分の面白さに気づけず、ただただ脱いで妙な事をやればいけるんじゃないかと模索しながらオーディションに挑んでいます。それを後藤に一瞬で見抜かれ「面白いというかキツいわ。ここまでやらなあかんのかなあ……」とぼやかれてしまいます。

 それに対し、「絶対売れたいんですよ」と強く言い放つ箕輪さん。この人もきっと、子どもの頃に憧れの芸人がいて、こんな芸人になれたらな、こんな芸ができたらな、こんな風に人を笑わせられたらな、と夢を見てこの道に進んだのだと思います。

 しかし何をしてもうまくいかず、自分のやりたいお笑いと売れているお笑いとのギャップや自分の才能の無さに苦しみ、最終的に自分がどういう芸人になりたいのか、自分がどういうことを大切にしてお笑いをやっているのか、そういう本当に大事な部分を見失ったまま、「売れたい」という気持ちだけが先行してしまってこのような末路を辿ってしまったのでしょう。

 そういう人を何人か見てきたことがあるので僕には全く他人事には思えず、

 泣き崩れる箕輪光に後藤が呟いた「そういうもんよ、芸人は」という言葉に胸が苦しくなりました。

 

ベスト4位

「昔、そいつにシバかれた奴」

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 「10年間の恨みがたまたま美容室で爆発する」という内容のコントです。

  まるで映画のワンシーンのようなコントですよね。いやこんな映画ねえよ、って言われるかもしれませんが、少なくとも僕はこんな映画が見たいし、撮りたいと思いました。

 ワンカット引きの画。真っ白の背景なので2人の演技以外目に入らないのですが、それでも前半からずっと目が離せません。徐々に真相に近づいていく後藤と、"何か"を先に察知するものの美容院の客として座ってしまっている以上相手の質問に答えることしか出来ない福徳。

 「電球変える人と~~」でも言いましたが、このコントのように「髪を切る美容師」と「髪を切られるお客」のような、小さいけれど2人にとっては大きな上下関係があると、全編通して小さなサスペンスが持続され続けますよね。真実に近づいていく後藤がいつどのタイミングで"そのこと"を確信し怒りを爆発させるか予想できない。福徳は成す術もなく相手に合わせ、誤摩化そうとすることしかできない。

 そして放たれる「それ僕ですね」。

 やはりジャルジャルのコントの一番面白いところは、たった一言、たった一言で2人の関係が一気に逆転したりぶっ壊れてしまうその瞬間だと思います。

 その代表例が去年のベストにも選んだ

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 「突然、注意する奴」です。

 「タメ口やめてくれ」の一言で2人の保っていた関係が完全崩壊。気まずくなる。という内容のコントでした。

 僕も暴力映画を撮っているので、突然殴ったり撃ち殺したりして2人の関係が崩壊するというシーンは今までいくつも撮ってきたのですが、このように直接的な暴力描写ではなく、完全にたかが一言、「それ僕ですね」だったり「タメ口やめてくれ」と言う台詞だけでぶっ壊してしまう展開を描くのはすごいと思いました。

 結局日常に蔓延してる暴力、要するに人を傷つけたり人に傷つけられたりすることって殴ったり蹴ったりとかよりも、圧倒的に言葉のほうが多いんですよね。

 さっきまであんなに楽しかったのに、たったの一言でその日の楽しかったこと全部帳消しになってしまうほど落ち込んでしまったりしたこと経験有ると思います。それは殴られたり蹴られたりすることよりも何倍も。それくらい言葉の暴力って強いし、蔓延している。

 コントの話に戻りますが、後藤が「それ僕ですね」という言葉の暴力を使った下克上をして福徳にリベンジを仕掛けるのですが、やはり直接的な暴力ではずっと福徳の方が上手で、結局この2人の関係は10年経っても変わらない、という救われないオチでした。

 「いつまで野球部やねん…!」という後藤の叫びが切なかったです。

 

ベスト3位

「バイトの面接で「いい人そ〜」って言われる奴」

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 「褒めてもらってると思ってたら突然キレられる」という内容のコントです。

 それが君の良いところだよ。君のそう言うところ好きだよ。君はそう言うところを伸ばしていこうね。というような優しい言葉を他人に言ってもらえる経験って宝物ですよね。そういうことを言ってもらえる経験が有るかどうかで人格形成にも大きく繋がってくるし、大げさなことを言うとその一言で人生が変わってしまう場合も有ると思います。

 

 このコントではそんな、自ら言った「褒め言葉」を自らの手で否定して「そんなもんがなんやぁ!」と突然ぶち壊す狂人のコントです。

 理不尽でしかないこの顛末、このコントの後藤はもう本当の本当に何がしたいのかよくわからないし(ジャルジャルのコントは大半がそれなんですが)よくわからないままで終わる、ほんまもんの不条理劇。まだ「鷲見さんという怖い奴に人生握られる」とか「ヤバい先生に従わなきゃいけなくなる」とかのほうがわかりやすい。

 最初は褒めていたのに徐々に徐々に語気が荒くなってブチ切れていく演技は圧巻です。聞きに徹する福徳の演技も本当に素晴らしい。

 とにかく理不尽すぎて笑いました。福徳が不幸になるコントにハズレは無いです。

 ちょっと話変わります。

 最近だとM-1グランプリの後によく見たのですが「これからの時代は人を傷つけない笑いが大切」といったことがよく言われています。僕も人を傷つける創作と傷つけない創作の違いってなんなんだろうと考える時がよくあります。

 人を傷つける笑いは僕もあまりもうやろうと思わないし、見たいとも思わないのですが、「不幸を笑う」ってやっぱりお笑いの根底だと思うんですよね。

 人を傷つけない笑い=みんなが幸せになる。とは違うと思いますし、

 人の不幸を笑う笑い=人を傷つける笑い、というわけでもないと思います。

 人を傷つける笑いって人のパーソナルな部分に踏み込んで、それを見下したりバカにする笑いだと思うんです。それは最悪だと思います。それだけはしてはいけないと思います。

 でも、人が酷い目に合った不幸を笑うって別にそれ自体はすごく健全なことだと思うんです。ただただ転んだ人を笑ったりするのは最悪ですよ? そうじゃなくて、コントとして、ネタとして、「これってこうで、こう不幸になっちゃの、面白いでしょう?」と提供されているものを笑うのは何もおかしなことじゃない。

 創作上でも不幸な目にあった人間が笑われてはいけないという空気を作ってしまったら、不幸な人はずっと笑われないし、笑えないということになりかねないから。

 福徳さんのインタビューの発言とか拾ってもっと書きたいところですが、それだけでまた長くなってしまうのでこの辺にします。

 とにかく「理不尽を受けた人を笑う」、不幸を笑うタイプのコントなのですが、僕はすごく面白いと思ったし滅茶苦茶笑ったので、こういうコントもずっと作っていってほしいなと思いました。

 

ベスト2位

「相方が作ったネタ理解できへん奴」

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 「別れ」のコントです。

 何度もこの記事でも書いているように、何とか危うく保っている関係をたった一言で破壊してしまう展開を描くのに定評があるジャルジャル

 このコントも、よくわからないネタを何とか付き合ってあげている後藤がたった一言、「あ、ごめん、ちょっと理解できへん」と言ったことによってお笑いコンビという2人の関係が崩壊してしまいます。ここまでは他のコントのテンプレートに従っていますね。

 しかしそこからの展開は、今までいくつも見てきた「あ、こいつヤバいやつやったんや」と身近な人間が狂人であることに気づく展開や、シンプルに首を絞め合ったりという暴力沙汰に発展する展開などとは一線を画すものでした。

 ここからの展開は「もうついていけないことに気づいた後藤が曖昧にお別れを告げ、福徳がそれを悟って泣きながら受け入れる」というもの。

 一方通行の愛が終わる、お別れの物語だったのです。

 「一生かかっても(お前のことを)理解できへんわ」という最大級の別れの言葉を言われて「普通に泣きそうやなこれ…」と曖昧に笑う福徳。「お前のこと嫌いになったとかじゃないねん」というフォローも耳に入ってこず、しまいには「この3年めっちゃ楽しくて…」と泣き出してしまう。

 「まあ、あの……ここで終わりなわけじゃないからさ。俺も楽しかった。ありがとう」と優しい言葉をかけて背中を叩いてくれる後藤に、最後のわがままで「最後に一回だけ写真とらへん?」と聞く福徳。それに対し後藤が優しく「ああ、ええよ」と言うまでの間に、1秒くらいの間があいてしまっていたのがまた悲しかったです。あの1秒に何を考えたんだろう。想像もしたく有りません。もう後藤に未練は一切残っていない、気持ちはここには全くないのがハッキリとわかる、世界で一番悲しい1秒間でしたね。

 めんどくさいって思われたくないし、最後くらいはキレイに終わりたい、迷惑かけたくない、嫌われたくない、この3年間の思い出を最後の最後にぶち壊すようなことはしたくない、悲しい恋で終わりたくない、良い思い出にしたい。

 そんな思いで「ええって、もう帰れや。帰れっ」と笑って言う福徳の演技のなんといじらしいことか。

 そして、それでも、それでも「あと一ヶ月だけでもやる?」と聞く後藤。

 この2人はどこまでも思い合っているのに、この2人はどこまでもすれ違ってしまっている。そんなことが伝わってくるラスト。

 なんて切ないコントなんや。と思いました。

 

ベスト1位

「珍しい名前のせいで不採用になる奴」

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 「珍しい名前のせいで不採用になる」という内容のコントです。

 もう、単純に一番笑ったので1位です。

 前半の有りそうで無さそうな理不尽な融通の利かない展開からの「10、0にしたるわ」の一言で後藤の独壇場。ブチ切れ、はっちゃけまくる後藤が面白い。それだけのコントです。

 わけのわからないルールに縛られている福徳。店。本社。そしてその果てには、この国に蔓延するルールにがんじがらめな空気。その全ての怒りを発散させまくる。

 人が本気で怒ったり人が本気で悲しんだりしてる姿がやっぱり一番面白いってことが改めてわかるコントです。

 それだけで充分です。一番おもしろい。

 

 

 

 というわけで長々書いてしまいました、「ジャルジャルのネタのタネ」2019ベスト。

 この記事がきっかけでジャルジャルの話が出来る友達とか出来たり、新しくジャルジャルファンが増えたりしたらすごく嬉しいです。

 あと去年から僕はジャルジャルのファンになったばかりの新規なので、今年はたくさんライブとか色々見に行きたいなと思ってます。

 それでは皆様よいお年を。